チュートリアル:Power Palette 設定編
このチュートリアルでは、損失解析や詳細波形解析を行うための詳細解析スイッチ素子について以下の内容を説明します。
-
詳細解析用の素子一覧
詳細解析用素子の一覧と素子の説明ページを紹介します。 -
パラメータ設定 例1
Detail Nch Si/SiC-FET
素子にSiC-FETデバイスのデータシートの値を設定します。
ここでは基本的な入力パラメータについて説明します。 -
パラメータ設定 例2
Detail Nch GaN-FET with Kelvin
素子にケルビン端子付きGaN-FETデバイスのデータシートの値を設定します。
ここではゲート駆動回路のゲート抵抗がオン時とオフ時で異なり、オフ時のゲート駆動電圧にマイナス値が指定されている場合について説明します。
また、GaN-FETの逆特性についても説明します。 -
ケルビン端子の接続
ケルビン端子の利点と接続方法について説明します。
1. 詳細解析用の素子一覧
詳細解析用素子は5種類あります。
詳しくはそれぞれのページを参照してください。
- Detail Nch Si/SiC-FET
- Detail Nch Si/SiC-FET with Kelvin
- Detail Nch GaN-FET
- Detail Nch GaN-FET with Kelvin
- Detail Nch IGBT
2. パラメータ設定 例1
ここではNchのSi-FETまたはSiC-FETを使用する例を説明します。
パレットからDetail Nch Si/SiC-FET
を探して、回路エディタ上に配置します。
ここでは下記のサンプルのデータシートを参照しながら、インスペクター画面に値を入力します。
SiC-MOSFETのデータシート
2.1 ON/OFF特性
ON/OFF Characteristics
カテゴリーのパラメータを設定します。
ON Resistance
:ドレイン・ソース間オン抵抗RDS(on)
のTyp値を設定します。OFF Resistance
:データシートに記載がないのでデフォルト値を使用します。Threshold Voltage
:ゲート閾値電圧VGS(th)
のTyp値を設定します。
2.2 寄生容量
Capacitance Characteristics
カテゴリーのパラメータを設定します。
Input Capacitance
:入力容量Ciss
のTyp値を設定します。Output Cpacitance
:出力容量Coss
のTyp値を設定します。ESR of Drain-Source Capacitor
:デフォルト値を使用します。-
Output Cpacitance table
:Output Cpacitance
の右端にある…
ボタンをクリックして出力容量テーブルエディタを開きます。- +ボタンをクリックして、1ポイント分のデータを追加します。
Drain-Source Voltage(Vds)
に横軸のドレイン・ソース間電圧を入力します。Output Capacitance(Coss)
の縦軸の出力容量を入力します。 データシートのCapacitance Characteristics
のCoss
の曲線を再現できるように数ポイントを見繕い、同様の手順でデータを登録します。
2.3 スイッチング特性
Switching Characteristics
カテゴリーのパラメータを設定します。
Rise Time
:ターンオン時間Tr
のTyp値を設定します。Fall Time
:ターンオフ時間Tf
のTyp値を設定します。Drain-Source Voltage at Rise/Fall Time
:
Tr,Tf測定条件に記載されているドレイン電圧VDD
の値を設定します。Drain-Current Voltage at Rise/Fall Time
:
Tr,Tf測定条件に記載されているドレイン電流ID
の値を設定します。Saturation Gate Voltage
:
このパラメータはデータシート値ではなく実際のゲート駆動回路のゲート駆動パルス電圧を設定します。
ここでは、ひとまず、次の解析編で使用するゲート駆動パルス電圧(12V
)を設定しておきましょう。
2.4 ゲート抵抗
Switching Characteristics
カテゴリーのゲート抵抗に関するパラメータを設定します。
Gate Resistance
:ゲート内部抵抗RG
のTyp値を設定します。Gate Resisntace at ON State
:
Tr,Tf測定条件に記載されているゲート抵抗RG
を設定します。Gate Resisntace at OFF State
:
ゲート駆動回路がオン時とオフ時で分かれている場合はこのパラメータを設定します。
ここで使用するデータシートでは特に値が分かれていないので、Gate Resistance at ON State
と同じ値を設定します。
2.5 ボディダイオード特性
インスペクターのDiode Characteristics
カテゴリーを設定します。
OFF Resistance
:データシートに記載がないのでデフォルト値を使用します。Forward Voltage
:ソース・ドレイン順方向電圧(VSD)のTyp値を設定します。MaximumCharge
:最大蓄積電荷(Qrr)のTyp値の半分の値を設定します。-
ON Resistance
:
データシートのボディダイオード順電流 - ソース・ドレイン間電圧の特性カーブを参照します。 ここでは、スイッチング特性の項目で設定したドレイン電流値とその半分の2点間の傾きを抵抗値として設定します。Example
下図のように2点間の値を読み取り、傾きを算出します。
2.5 - 2.25 / 25 - 12.5 = 0.02 … 20mΩ
2.6 拡張パラメータ
Gate Voltage at ON State
、Gate Voltage at OFF State
:
Saturation Gate Voltage
とTr,Tf測定時のゲート駆動パルス電圧VGS
に大きな差がある場合に設定します。
ここではデータシートの値と実際のシミュレーション回路のSaturation Gate Voltage
の値が同じなので、特に設定しません。
Gate Inductance
、Drain Inductance
、Source Inductance
このパラメータは通常データシートには記載されていませんが、設定することも可能です。
ここでは0に設定します。
2.7 パラメータファイルの保存
詳細解析用素子はスペックに入力したパラメータをデータファイルとしてエクスポートしておくことができます。
素子の上で右クリックし、コンテキストメニューからExport parameter…
を選択し、任意の名前で保存します。
3. パラメータ設定 例2
ここでは2.パラメータ設定 例1
と異なる部分についてのみ説明し、特に記載のないパラメータは、同様に設定してください。
この例では、Kelvin端子付きのGaN-FETを使用します。
パレットからDetail Nch GaN-FET with Kelvin
を探して、回路エディタ上に配置します。
下記のGaNデータシートのサンプルを参照しながら、インスペクター画面に値を入力します。
GaN-FETのデータシート
3.1 逆特性
GaN-FET
にはボディダイオードが存在しませんが、逆特性は存在します。
データシートには特性カーブのみ記載されている場合もあります。
ON Voltage
:データシートの特性カーブからソース・ドレイン逆電圧を読み取ってその値を入力します。OFF Resistance
:通常データシートには記載がないのでデフォルト値を使用します。ON Resistance
:2章のボディダイオード特性と同様の手順でポイントを抽出し、2点間の傾きを抵抗値として設定します。
Tips
ソース・ドレイン逆電圧はVGS(th)
+OFF時のゲート駆動電圧に近い値になります。
3.2 ゲート抵抗
データシートのTr,Tf測定条件を見るとRG
の抵抗値が図の様にRG(on)とRG(off)で分けられています。
この場合はGate Resistance at ON State
とGate Resistance at OFF State
にそれぞれの値を設定します。
-
Gate Resistance
:ゲート内部抵抗RG
のTyp値を設定します。 -
Gate Resisntace at ON State
:
Tr,Tf測定条件に記載されているゲート抵抗RG(on)
を設定します。 -
Gate Resisntace at OFF State
:
Tr,Tf測定条件にターンオン時とターンオフ時のゲート抵抗が並列に分岐した回路が記載されている場合は、RG(on)
とRG(off)
の並列抵抗値を設定します。
Note
条件値に記載されているFigure3.のテスト回路を参照すると、ダイオードと抵抗を並列に接続することで、ターンオン時とターンオフ時に異なるルートを取ることがわかります。
このような回路はターンオフ時にFETに蓄積された電荷を急速に放電することで、スイッチング時間を短縮することができるため、GaN
やSiC
などの高速スイッチングデバイスの性能を活かすためにしばしば用いられます。
3.3 拡張パラメータ
データシートのTr,Tf測定時のゲート駆動パルス電圧+8/-4V
や-4V…8V
のように正と負の値が記載されていることがあります。
そのような場合には、Gate Voltage at ON State
に正の値を設定し、Gate Voltage at ON State
に負の値を設定します。
Gate Voltage at ON State
:
Tr,Tf測定条件に記載されているゲート飽和電圧VGS
の正の値を設定します。Gate Voltage at OFF State
:
Tr,Tf測定条件に記載されているゲート飽和電圧VGS
の負の値を設定します。
4. ケルビン端子の接続
ソース端子の寄生インダクタンスによる電圧降下はゲート・ソース間の電圧の低下を起こし、オン抵抗の上昇やスイッチング速度を落とす原因になります。ケルビン端子はドレイン電流が流れる経路とは独立しており、ソース端子の寄生インダクタンスによる電圧降下の影響を受けません。
GaN
やSiC
の性能を最大限に活かすために、ケルビン端子を採用したパッケージも増えています。
ケルビン端子は下図の様にゲート駆動回路のマイナス側端子と接続します。