損失解析における注意事項

損失解析サイクル時間

一般に電力は瞬時電力の時間平均として計算されますが、損失サイクル時間は、この平均を求める計算上の範囲時間のことです。
損失解析では後述する収束条件が満たされるまで損失解析サイクルが繰り返されます。

損失サイクル時間は、損失解析用のシミュレーションパラメータの詳細設定にあるAnalysis Cycleで設定できます。

Analysis Cycleの設定メニュは、シミュレーションモードPowerの実行パラメータ設定パネルで、More Configration…をクリックして開きます。
fig

Tips

回路エディタからコンフィグレーションを開き、メニューリスト内のAnalysis Profile > Powerの順にクリックして開くこともできます。

fig

Switching Cycle

Switching Cycleを選択した場合、Switching Baseで設定したシンボルの周期を損失解析サイクル時間とします。
ベースシンボルの周期が制御等によって変調されていてもそれに応じて損失解析サイクル時間も自動的に調整されます。そのため、制御した状態で損失解析することができます。
ベースシンボルは、リストから選択します。メイン回路(ここではコンバータと呼ぶ)を選択する場合は*CVTを選択します。

Specified Cycle

Specified Cycleを選択した場合、Frequencyの逆数を損失解析サイクル時間とします。 Frequencyには任意の損失解析サイクル時間を設定することができます。 Specified Cycleを選択した場合、損失解析サイクル時間は固定になります。


定常状態収束条件

一般的に損失解析は回路が定常状態のときに行われることを想定しているため、
損失解析時に回路が定常状態になっているかを判定する必要があります。

サイディームでは、損失電力に対して蓄積電力が十分に小さくなっているかを判定基準にしています。
このときの指標が定常状態率Storage Rateであり、解析中はヒストリーウィンドウの表示が更新され状態を確認することができます。

収束条件はStorage Rateと損失解析のシミュレーションパラメータで設定するToleranceが、 Storage Rate < Toleranceの条件を満たすと、収束と判定され損失解析は終了します。
fig2

収束しやすくするためにはStart Timeに回路が十分に定常状態となる時間を設定して損失解析を行ってください。

Toleranceは、通常はデフォルトの1で十分な精度が得られます。
収束のしやすさは回路に大きく依存しますが、以下のような傾向があります。  

  • 理想損失解析は収束しやすく詳細損失解析は収束しにくい。
    理想損失解析ではモデル素子の動作モードの切り替えがなく、
    一方、詳細解析では動作モードが切り替わるため、
    切り替わり時に過渡応答が生じて定常状態がくずれるため収束しにくくなります。

  • LC共振を積極的に利用した回路は収束しにくい。
    LC共振が回路動作を支配している場合、LC共振における電力の蓄積や放出によりStorage Rateが変動しやすく収束しにくくなります。
    この場合Storage Rateが大きくなったり小さくなったり変化が振動的になりますが、十分解析時間がたてば収束する場合も多くあります。
    収束が困難な場合は、Toleranceをある程度大きくするか解析を中断してください。
    中断した場合は、繰り返し解析のなかで Storage Rate最も小さい結果が表示されます。

    fig2


コア損失サイクル時間

コア損失にはコアのヒステリシス特性に基づく物理的なサイクル時間が存在します。
このコア損失サイクル時間は インダクタ相互変圧器Cycle Deviceで指定される素子の周期であり、Cycle Deviceにはコンバータ、サブ周波数、交流電圧源、交流電流源、波形発生器が設定できます。 fig

コンバータは*CVT、その他は素子の大域シンボルを設定してください。
素子選択に関しては、通常、コアの巻線電流の周期を決定する素子を選択します。
ほとんどの場合、コア損失サイクル時間はコンバータのスイッチング周期と同じとなります。

巻線電流が交流電圧源に基づく低周波電流のスイッチングに基づく高周波電流が重畳されている場合には注意が必要で、以下の二つの場合が考えられます。

高周波電流がコア損失の原因となっている場合

スイッチング電源においては、ほとんどの場合、使用しているコアは高周波コアであり、高周波電流によってコア損失が生じます。
このとき、低周波電流はコアの疑似的な直流重畳特性として表現されます。 したがって、この場合は高周波電流のサイクル素子をCycle Deviceに設定してください。
おもに、コンバータとサブ周波数が設定されます。
ただし、現時点でサイディームはコアの直流重畳特性を考慮していないので低周波電流の影響は計算できません。

低周波電流がコア損失の原因となっている場合

コア損失が商用電源によって生じている場合など、明らかに低周波電流がコア損失の主要な原因であり、
高周波電流は小さなリップルとみなされる場合は、Cycle Device低周波素子を設定してください。
おもに交流電圧源、交流電流源、波形発生器が設定されます。


損失解析サイクル時間とコア損失サイクル時間の関係

コア損失は、損失解析がコア損失サイクル時間まで完了しないと計算できません。
損失解析サイクル時間Taとコア損失サイクル時間Tcに対して以下の三つの場合が生じます。

  • Ta = Tcの場合
    コア損失は1サイクル分の計算が行われ、それが結果となります。

  • Ta > Tcの場合
    コア損失はTa / Tc(切り捨て)サイクル分が計算され、その平均値が結果となります。

  • Ta < Tcの場合 コア損失は0となります。


計算精度について

原則、各素子の電圧・電流波形が一致していれば、自動的に損失も一致すると考えられます。
したがって、損失解析の計算精度は、波形解析の精度(サイディームでは0.1%程度)と同程度と考えることができます。

実際には、計算精度よりも入力パラメータの誤差の方が問題になる場合が多いと考えられます。
特に、スイッチング損失やコア損失に関するパラメータは実測かまたは、メーカーによるデータに基づくが、通常実測は困難な場合が多く、
メーカーから提供されるデータも、測定条件が異なるために、通常実機回路の動作状況におけるデータと異なる場合が多いです。

上記のため、損失解析においてパラメータ調整は必須といえます。
そこで、サイディームでは、損失解析において色々なパラメータ調整を行うことを前提とし、以下をコンセプトに設計しております。

  • ユーザーが入力パラメータの物理的意味を容易に理解出きること
  • 試行錯誤的パラメータ調整を行っても現実的な計算時間で実行可能なように計算速度を早くすること