周波数特性解析[FRA]

説明

周波数特性解析は回路の安定性を判断するのに有効な周波数特性を解析します。
サイディームでは部品回路の部分的な周波数特性もオリジナル回路を変更することなく測定が可能です。

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解析方法の詳細

サイディームでは周波数特性解析方法として信号源に歪波を入力して、現れた波形をFFTにかけて一度に全周波数成分を求める方法を使用しています。
これにより、解析が一度に行われるので非常に短時間で結果を求めることができます。


解析の実施方法

  1. 回路上にAC Sweep素子を配置

    周波数特性解析を行うために回路上に AC Sweep素子を配置します。
    通常 AC Sweep素子は、信号の伝達方向を見たとき、入力インピーダンスが高く、逆方向を見たときの出力インピーダンスが低い箇所に接続します。高インピーダンスの分圧抵抗の直前などが適しています。

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  2. FRAモードの選択とFRA開始時間の設定

    ツールバーの実行ボタン横のプルダウンをクリックしてシミュレーション設定パネルを開き、FRAタブをクリックします。FRA Start timeを設定します。

    周波数特性解析は系が定常状態となった状態で実施する必要があります。
    FRA Start timeには系が十分定常状態に到達する時間を入力してください。

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  3. AC Sweep素子の指定

    AC Sweepに1.で配置した AC Sweep素子を指定します。

  4. 伝達関数の入力と出力の指定

    周波数特性を解析する系は伝達関数の入力と出力(分母と分子)を指定することで確定されます。

    シミュレーション設定パネルFromに入力を、Toに出力を指定してください。

  5. 周波数範囲の設定

    最低周波数, 最大周波数を設定して周波数範囲を設定します。
    解析結果が乱れている場合、最低周波数を低く設定すると正しく解析できる場合があります。 最大周波数はメイン周波数の約1/4程度が限界です。

    最大周波数について

    最大周波数はまずサンプリング定理に基づき、周波数範囲はナイキスト周波数であるメイン周波数の1/2の値が最大値となります。ここから微分方程式の解法や波形生成時の点同士の結線による誤差を考慮すると、周波数範囲をもう少し狭める必要がありますので、メイン周波数の約1/4程度の値を推奨しております。

  6. 周波数特性解析を実行する

    以上で準備は完了です。 シミュレーション設定パネルfigをクリックすることで解析が実行されます。


結果の確認

通常のシミュレーションと同様、ヒストリーウィンドウにシミュレーション結果がストックされます。 fig

ストックされたシミュレーション結果には次の情報が表示されます。

項目 内容
解析結果名称 ファイル名 - 解析方法(FRA) 連番の形式で表示されます。
Mode 使用したシミュレーションのモードを表示します。
Progress シミュレーションの進捗が表示されます。
Duration シミュレーションの開始時間と終了時間が表示します。
Elapsed シミュレーションにかかった時間を表示します
AC Sweep シミュレーション設定で指定した、AC Sweep素子を表示します。
From - To シミュレーション設定で指定した、伝達関数の入力と出力を表示します。
Range シミュレーション設定で指定した周波数の範囲を表示します。
Default color グラフの線の色です。変更することもできます。
Result シミュレーションの状態が表示されます。

周波数特性解析の結果はサイディーム上でボード線図として表示されます。
ボード線図にオンマウスすると、そのポイントの周波数と位相/ゲインが表示されます。


解析パラメータの詳細設定

周波数特性解析のパラメータは、シミュレーション設定パネルに表示されたもの以外にも設定できる項目があります。 More Configration…からシミュレーションプロファイルを開くと全ての項目を設定することができます。

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交流信号源電圧の設定

Applied voltage では交流信号源電圧を設定します。
交流信号源電圧は、理論的にはなるべく小さいほうが解析は正確になりますが、小さすぎるとリップル等の雑音の影響を受けやすくなります。
また、逆に大きすぎる場合には飽和したり波形が歪んだりします。
通常は、デフォルトの1mVで良いでしょう。1uV~1V程度で設定してください。


周波数特性の結果がうまく得られないときは

周波数特性解析は、系によっては正確な結果が得られない場合もあります。正確な結果を得るために、下記の項目を検討してください。

ポイント 説明
回路を定常状態にする 回路を定常状態にするため、FRA開始時間を長めに取ってください。
直流波形を解析する 交流電源や他の理由で波形が振動する場合、AC Sweep 素子の正弦波信号が乱されてしまうため、正確な周波数特性は得られません。直流波形に変換して解析してください。
変数のモードをAveに設定する 入力・出力波形には任意の変数モードを指定可能ですが、通常、平均値の特性で周波数特性を解析することが一般的と考えられるため、変数モードにはAveを設定してください。
周波数特性の解析帯域を確認する Advancedメニューを展開し、周波数特性を解析する帯域を指定する最大周波数と最低周波数の値を確認してください。
最低周波数の値が大きい場合、正確な特性が得られないことがあるため、十分に小さい値にしてください。
最大周波数 はメイン周波数の約1/4程度が限界です。

一巡伝達関数の位相余裕について

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通常の一巡伝達関数GHは開ループの一巡伝達関数を意味します。したがって、位相特性はGHの位相特性であり赤色で示したHの出力がコンバータの入力側へ負帰還されるために符号が反転します。したがって位相が180°変わることを考慮しません。

一方、サイディームの周波数特性解析では、閉ループのままで一巡伝達関数を調べるのでこの符号反転を含めて位相特性を表示します。
このとき、表示を見やすくするために360°を足して表示します。
したがって、通常のGHの位相特性とサイディームでの一巡伝達関数特性とでは、符号反転分+180°だけずれて表示されることに注意してください。
たとえば、フィードバック制御における安定性を調べるためには、一巡伝達関数GHの周波数特性を求めます。

通常は、開ループ時のGHの周波数特性を考えて、安定条件として、|GH|<1または∠GH>-180°が成立すれば安定といえます。
このときの位相条件は、本来であれば∠GH>-360°となりますが、Hの出力がコンバータの入力側へ負帰還する、
すなわち-180°されることが前提にあるのでGH>-180°が条件ということになります。

一方、サイディームでは、位相特性のなかにこの符号反転も含まれているので位相条件は∠GH>-360°であり、-360°では表示が見にくくなるので+360°シフトしてを基準にして条件判断を行います。


交流電源を含む回路の周波数特性解析

交流電源を含む回路では、波形が大きく振動し、AC Sweep素子の正弦波信号がマスクされてしまうため正確な周波数特性は得られません。
そのため、以下の手順で交流入力を適当な動作点に対する直流入力に置き換えて周波数特性解析を行います。 動作点が変化すると周波数特性も変わるので,同じ手順で動作点をずらしながら測定を行い、その結果で判断します。

  1. 交流入力を適当な直流入力にする。
  2. その入力に対するスイッチの動作を考慮した回路を作成する。
  3. Transient解析を行い,定常状態におけるリップルが十分に小さいことを確認する。
  4. FRAを行う。

Tips

上記の方法は、交流周波数とスイッチング周波数に差がない場合、正しく周波数特性を取ることができません。 具体的には、スイッチング周波数が交流周波数の100倍以上であることが望ましいです。

参考

AC Sweep素子