周波数特性解析[Frequency]

説明

周波数特性解析は回路の安定性を判断するのに有効な周波数特性を解析します。
SCALEでは部品回路の部分的な周波数特性もオリジナル回路を変更することなく測定が可能です。

fra_result

SCALEにはFastSlowの二種類の解析方法が用意されています。


各解析方法の詳細

解析方法 内容
Fast法 信号源に歪波を入力して、現れた波形をFFTにかけて一度に全周波数成分を求める方法です。
したがって、Fast法では解析が一度に行われるので非常に短時間で結果を求めることができます。
Slow法 信号源に正弦波を使用し、周波数を変化させながら何度も波形を解析します。
方法が単純なので解析が確実に行えますが、何度も波形解析を繰り返すので解析時間が長くなります。

Note

基本的にはFast法で解析を行うことで高速にかつ詳細に解析を行うことが可能です。 しかし、Fast法で解析が困難な場合には、周波数特性の結果がうまく得られないときはを参考にし、解析方法を見直してください。それでも解析が困難な場合にはSlow法を使用してください。

Slow解析における設定

周波数分割数の設定(Ndiv)

Slow解析の場合は、周波数の分割数をNdivに設定します。Fast解析の場合は、自動的に設定されます。

解析時間の設定(Tanl)

Slowを使用する場合、解析時間Tanlを設定します。解析時間とは、過渡応答が終わり定常状態になるまでの時間です。周波数特性解析ではAC Sweep素子の周波数や電圧を変化させ、その応答を観測します。このとき、過渡応答が生じますが、これが十分安定しないと正確な測定ができません。通常は、デフォルトの10msで良いと思いますが、時定数の大きい回路の場合は、長く設定する必要があります。もし、解析結果が正確でないようなら20ms、30ms・・・等設定してください。Fast解析の場合は、設定不要です。


解析方法

  1. 回路上にAC Sweep素子を配置します。通常AC Sweep素子は、信号の伝達方向を見たとき、入力インピーダンスが高く、逆方向を見たときの出力インピーダンスが低い箇所に接続します。高インピーダンスの分圧抵抗の直前などが適しています。
  2. 回路が定常状態になるまでTransient解析等を行い、Updateにて定常状態を初期値として更新します。
  3. Analysis:Frequencyより周波数特性解析方法を選択し、周波数特性解析の開始点Fromと終了点Toを選択します。
  4. FRAウィンドウが表示され、結果が表示されます。ウィンドウが自動で立ち上がらない場合は、Window:Window:FRAよりFRAウィンドウを表示します。

以上で、解析を行うことが可能です。


補足

周波数範囲の設定

AC Sweep素子Fmin 最低周波数, Fmax 最大周波数で設定します。 Fast解析 で解析結果が乱れている場合、 Fmin を低く設定すると正しく解析できる場合があります。 Fmax はメイン周波数の約1/4程度が限界です。

信号電圧について

交流信号源の電圧Vacを設定します。Vacは、理論的にはなるべく小さいほうが解析は正確になりますが、小さすぎるとリップル等の雑音の影響を受けやすくなります。また、逆に大きすぎる場合には飽和したり波形が歪んだりします。通常は、デフォルトの1mVで良いでしょう。1uV~1V程度で設定してください。

周波数特性の結果がうまく得られないときは

周波数特性解析は、系によっては正確な結果が得られない場合もあります。正確な結果を得るために、下記の項目を検討してください。

ポイント 説明
回路を定常状態にする 回路を定常状態にするため、事前に十分Transient解析を行ってください
直流波形を解析する 交流電源や他の理由で波形が振動する場合、AC Sweep 素子の正弦波信号が乱されてしまうため、正確な周波数特性は得られません。直流波形に変換して解析してください。
変数のモードをAveに設定する 入力・出力波形には任意の変数モードを指定可能ですが、通常、平均値の特性で周波数特性を解析することが一般的と考えられるため、変数モードには「Ave」を設定してください。
周波数特性の解析帯域を確認する AC Sweep 素子のパラメーターで、周波数特性を解析する帯域を指定する「Fmin」と「Fmax」の値を確認してください。
「Fmin」の値が大きい場合、正確な特性が得られないことがあるため、十分に小さい値にしてください。
「Fmax」 はメイン周波数の約1/4程度が限界です。

一巡伝達関数の位相余裕について

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通常の一巡伝達関数GHは開ループの一巡伝達関数を意味します。したがって、位相特性はGHの位相特性であり赤色で示したHの出力がコンバータの入力側へ負帰還されるために符号が反転します。したがって位相が180°変わることを考慮しません。

一方、SCALEの周波数特性解析では、閉ループのままで一巡伝達関数を調べるのでこの符号反転を含めて位相特性を表示します。このとき、表示を見やすくするために360°を足して表示します。したがって、通常のGHの位相特性とSCALEでの一巡伝達関数特性とでは、符号反転分+180°だけずれて表示されることに注意してください。
たとえば、フィードバック制御における安定性を調べるためには、一巡伝達関数GHの周波数特性を求めます。

通常は、開ループ時のGHの周波数特性を考えて、安定条件として、|GH|<1または∠GH>-180°が成立すれば安定といえます。このときの位相条件は、本来であれば∠GH>-360°となりますが、Hの出力がコンバータの入力側へ負帰還する、すなわち-180°されることが前提にあるのでGH>-180°が条件ということになります。

一方、SCALEでは、位相特性のなかにこの符号反転も含まれているので位相条件は∠GH>-360°であり、-360°では表示が見にくくなるので+360°シフトして0°を基準にして条件判断を行います。

参考

AC Sweep素子
サンプル:回路編:周波数応答解析