スイッチング特性

基本特性

スイッチ素子には基本特性として次の3つの特性があります。

  • オン領域(線形領域)
  • オフ領域(遮断領域)
  • アクティブ領域(飽和領域)

オン領域、オフ領域では、それぞれオン抵抗、オフ抵抗でモデル化されています。

アクティブ領域はスイッチング損失を求めるのに最も重要な領域であり。
基本的には、アクティブ領域とオン領域の境界部分も含めた解析をするために、 ドレイン・ソース電圧がピンチオフ電圧より大きい場合と小さい場合とで二つの特性式が用いられます。

ターンオン特性、ターンオフ特性は、これらの特性式を用いて設定されている測定条件下において、 ドレイン電流変化時間がターンオン時間(Tr)、ターンオフ時間(Tf)になるような特性となっています。

このとき、ドレイン電流の傾きを調整するために、SCALEでは、アクティブ領域においてFETの入力容量がミラー効果によって増加するモデルを採用しています。

なお、スイッチング特性に関係するパラメータは、Nch FETNch IGBT内のパラメータ Rg、Ciss、Coss、Vgsat、Tr、Tf、It、Vtであり、これらを適切に設定する必要があります。


パラメータの定義と設定について

スイッチング特性に関係するSCALEのパラメータの定義や、パラメータ設定に実測値やデータシートを使用する場合の注意点について記載します。

Trの定義

SCALEにおけるTrは、ターンオン時において正味のドレイン電流が0(0%)からオン電流(100%)になるまでの時間と定義しています。
ここで、正味のドレイン電流とは、出力容量Cossおよびボディダイオードの電流を含まないドレイン電流を意味します。


Tfの定義

Tfターンオフ時において正味のドレイン電流がオン電流(100%)から0(0%)になるまでの時間と定義しています。


Tr、Tf 設定時の注意点

SCALEのTrTfにデータシートや実測値を利用する場合、以下の点に注意が必要です。

  1. ドレイン電流で定義されている
    一般的にメーカーのデータシートのTrTfは、ドレイン・ソース電圧で定義されています。しかし、本来スイッチ素子のアクティブ領域における基本特性は、ゲート電圧でドレイン電流が決まる特性となっているので、ドレイン電流を基にすればTrTfはスイッチ素子だけで一意に定義することができます。
    一方、ドレイン・ソース電圧はスイッチ素子の周辺のインピーダンスに依存するので、 ドレイン・ソース電圧を基にしたTrTfはスイッチ素子だけでは一意に定義できません。 以上の理由により、SCALEのTrTfはドレイン電流によって定義されています。

  2. ドレイン電流変化の0%~100%で定義されている
    データシートでは、ドレイン・ソース電圧変化の10%~90%で定義されていますが、SCALEでは、ドレイン電流変化の0%~100%で定義されています。

  3. Cossやボディダイオードの電流を除いた正味のドレイン電流で定義されている
    実測値のドレイン電流はCossやボディダイオードの電流を含んでいます。一方、SCALEでは、TrTfの定義にはCossの電流を含まない正味のドレイン電流が使用されています。

  4. Cossは固定値で定義されている
    Cossにはドレイン・ソース電圧依存特性のない固定値を使用して定義されています。

  5. 抵抗負荷で定義されている
    SCALEのTrTfは、抵抗負荷で定義されています。したがって、データシートのTrTfが抵抗負荷で定義されていれば、ドレイン・ソース電圧とドレイン電流は比例するのでSCALEの定義とデータシートの定義に大きな違いはありません。しかし、データシートが抵抗負荷以外で定義されている場合は注意が必要です。


実測値を利用する場合

スイッチング特性に関係するパラメータとして全て実測値を使用する場合は、そのまま実測値を設定してください。この方法が最も正確となります。

実測値を使用する場合はパラメータごとに下記の点をご確認ください。

Rg

Rgは、後述のCissとともにゲート電圧の時定数を決定し、結果としてドレイン電流のスルーレートを決定する重要なパラメータとなります。

注意する点としてRg素子内部の抵抗だけでなく、ドライブ回路のゲート抵抗も含めて設定する必要があります。

Ciss

Cissはゲート・ソース容量+ゲート・ドレイン容量の和です。

Coss

Cossはドレイン・ソース容量+ゲート・ドレイン容量の和です。
Cossテーブルが設定されていれば、アクティブ領域においてはそのテーブルにしたがってSCALEが随時変更します。

Vgsat

Vgsatは、オン領域になるときのゲート・ソース電圧です。
通常は、ドライブ回路のパルス振幅(0Vからの値)を設定します。
この値が、パルス振幅より大きいとスイッチ素子はオンしきれずスイッチング損失が大きくなります。

Tr、Tf、It、Vt

Tr、Tfに関しては上述の定義を参照してください。
Itは、ターンオン直後のドレイン定常電流、Vtはターンオン直前のドレイン・ソース定常電圧を設定してください。


データシートを利用する場合

データシート値を利用してパラメータ設定する場合も、実測値を利用する場合と基本的には同じですが、以下の点もご確認ください。

Coss

データシートにCossの代表値と実効値が記載されている場合は実効値を使用してください。
より正確にするにはCossのテーブルを設定してください。

Rg、Tr、Tf、It、Vt

これらのパラメータは一括してデータシートの測定値を使用してください。
一般的にRg、It、VtTr、Tfの項目に条件値として記載されています。
この場合、Rg、It、Vtのデータシート値は実機の値と異なるのが普通であり、
これに関しては、It、VtについてはSCALE内部で調整が自動的に行われ、
残りのRgについては以下のように設定します。

  • Rgとしてデータシート値を設定する。
  • 実機との差分抵抗をドライブ回路に外付け抵抗として付加する。
    なお、SCALEでは、正負の抵抗値が設定できます(0には設定できない)。