DABコンバータのシミュレーション

DABコンバータのシミュレーション

はじめに

今回はDABコンバータ回路、 Dual Active Bridge (DAB)回路について、簡単な解説とScideamを使ったシミュレーションを行います。

DABコンバータ回路は絶縁型で双方向の電力変換が可能であり、従来の双方向チョッパー回路と絶縁回路を接続した双方向コンバータ回路と比べると回路構成を少なくでき、またソフトスイッチングも行うことができるという特徴を持っています。

このような理由から、主に新エネルギーシステムや電気自動車、マイクログリッドなどの分野での用途が期待されています。
それでは始めましょう。

今回する使用モデルについて

本記事で使用するサンプル回路は、以下からダウンロードしてご利用いただけます。

なお、本サンプル回路はScideamで動作します。
Scideamをお持ちでない方は、以下よりダウンロードをしてご利用ください。

DABコンバータとは

DAB(Dual Active Bridge)コンバータとは絶縁型双方向DC/DCコンバータの一種で、変圧器の一次側と二次側にブリッジ回路を設けた回路です。

DABコンバータの特徴

DABコンバータは以下のような特徴を持つ回路となります。

  • 基準相と制御層の位相を変化させることで、双方向の電力変換を行うことができる
  • ZVS(Zero Voltage Switching)が可能であり、サージ電圧を小さくできる

これらの特徴から、主に電圧と電流が大きい大容量の電源回路に用いられます。

位相差による電力変換の動作原理

DABコンバータには大きく分けて4つの動作モードがあります。

例えば図1のような回路の場合、一次側から二次側への電力送電を行う場合、図2に示すようにモードが変化します。

なお、図2の $\varphi_d$ は位相差 $\varphi$ を正規化した位相シフトデューティ ($\varphi_d=\frac{\varphi}{360}$)を表しています。

図1 DABコンバータ回路
図2 各モードの遷移

Mode1

図3 Mode1-1
図4 Mode1-2

Mode1ではSW1、SW4、SW6、SW7がオンとなっており、一次側のリアクタンスLに掛かる電圧は $V_{in}+NV_{out}$ となります。

Mode1ではターンオンの前に、直前のModeでリアクタンスLに流れていた電流がボディダイオードを通じて流れるため、Mode1-1のような電流経路を経たあと、Mode1-2のような電流経路となります。

この時$i_L$は次の式で表されます。

$$ i_L = \frac{V_{in} + NV_{out}}{L} t+I_0 \tag{1}$$

$I_0$ : $i_L$の初期値
$t$ : 時間

Mode1は $t=\varphi_d T_s$ まで続き、その後Model2へと遷移します。

$\varphi_d$ : 位相差 $\varphi$ を正規化した位相シフトデューティ ($\varphi_d=\frac{\varphi}{360}$)
$T_s$ : 周期

Mode2

図5 Mode2

Mode2ではスイッチSW1、SW4、SW5、SW8がオンとなり、一次側のリアクタンスLに掛かる電圧は $V_{in}-NV_{out}$となります。

この時$i_L$は次の式で表されます。

$$ i_L = \frac{V_{in} – NV_{out}}{L} (t-\varphi_d T_s)+I_1 \tag{2}$$

$I_1$ : Mode2開始時の$i_L$

Mode2は$t=0.5T_s$まで続き、その後Mode3へと遷移します

Mode3

図6 Mode3-1
図7 Mode3-2

Mode3ではスイッチSW2、SW3、SW5、SW8がオンとなり、一次側のリアクタンスLに掛かる電圧は $-(V_{in}+NV_{out})$ となります。

この時 $i_L$ は次の式で表されます。

$$ i_L = \frac{-(V_{in} + NV_{out})}{L} (t-0.5T_s)+I_2 \tag{3}$$

$I_2$ : Mode3開始時の$i_L$

Mode3は$t=(0.5+\varphi_d)T_s$まで続き、その後Mode4へと遷移します。

Mode4

図8 Mode4

Mode4ではスイッチSW2、SW3、SW6、SW7がオンとなり、一次側のリアクタンスLに掛かる電圧は$-(V_{in}+NV_{out})$となります。

この時 $i_L$ は次の式で表されます。

$$ i_L = \frac{-(V_{in} + NV_{out})}{L} \{ t-(0.5+\varphi_d)T_s \}+I_3 \tag{4}$$

$I_3$ : Mode4開始時の$i_L$

以上のように$i_L$に流れる電流は位相差$\varphi$によってコントロールすることができます。

一次側から二次側へ電力送電を行う場合、各モードにおける$i_L$は図9のようになります。

図9 Modeの遷移と$iL$の関係

$I_0$、$I_1$、$I_2$、$I_3$は各Modeの電流初期値を示しています。

図9より、動作の対称性から電流初期値は次のような関係を持ちます。

$$I_1=-I_3 \tag{5}$$

$$I_2=-I_0 \tag{6}$$

式(5)、式(6)と図9から、Mode1からMode2までと、Mode3からMode4までの電流$i_L$には対称性があることがわかります。

ZVSが可能な領域と位相シフトデューティの関係

ZVSの達成条件は次の二点となります。

  • スイッチオフ直前の電流はDrainからSourceに流れていること
  • スイッチオン直前の電流はSourceからDrainに流れていること

上記を図7の電流初期値で表すと$I_1>0$、$I_2>0$となればZVSが可能です。

$I_1$は式(1)の$iL$における$t$ が$t =\varphi_d$の時の値となるので次のように表せます。

$$I_1 = \frac{V_{in}+NV_{out}}{L}\varphi_d T_s + I_0 \tag{9}$$

同様に$I_2$は式(2)における$t$が$t = 0.5T_s$となった時の値ですので次のように表せます。

$$I_2 = \frac{V_{in} – NV_{out}}{L}(0.5 – \varphi_d) T_s + I_1 \tag{10}$$

式(5)、式(6)の関係から、$I_1$は次のような式に変形することができます。

$$I_1 = \{V_{in} \left( \varphi_d – \frac{1}{4} \right) + \frac{NV_{out}}{4}\}\varphi_d T_s \tag{11}$$

ZVSの条件から$I_1>0$として、入出力電圧比$M$の形に変形させると次の式となります。

$$ M = \frac{NV_{out}}{V_{in}} \ge 1-4\varphi_d \tag{12} $$

同様に$I_2> 0$ となる入出力電圧比 $M$ は次の式で示すことができます。

$$ M = \frac{NV_{out}}{V_{in}} \le \frac{1}{1-4\varphi_d} \tag{13} $$

式(12)と式(13)より、ZVSが可能となる領域は図10のようになります。

図10 ZVS可能領域

また、著者の平地先生のブログにもDABコンバータの解説があります。こちらもご参考にしてください。
本記事下部の参考文献よりリンクされています。

シミュレーション

それでは実際にDABコンバータの動きをシミュレーションしてみましょう。

図 11 シミュレーションモデル

サンプル回路では出力電流をサンプリングし、PID制御を行って目標電流となるように1次側-2次側間の位相差φdを制御しています。

Scideamではこのような制御を含めた複雑なスイッチングも簡単に構成することが可能です。

図11の緑枠部内の2次側目標電流”It_sec”の値を変更していただくことで、位相差による電力送電の変化を確認することができます。(目標電流は+20A ~ -20Aの範囲で変更してください。)

PIDブロックによって算出された位相差はスクリプトを介してゲートドライブパルスへ与えられます。

上記を踏まえた上で早速、サンプル回路をシミュレーションしてみましょう。
Waveform解析で10[msec]シミュレーションしてみてください。

シミュレーションの結果、図12のような波形が得られます。
位相シフトされたスイッチの動作や、電流波形よりModeの切り替わりを確認することができます。

図12  シミュレーション結果

まとめ

  1. DABコンバータとは絶縁型双方向DC/DCコンバータの一種で変圧器を挟んで2つのフルブリッジ構造を持つ回路である。
  2. 位相差によって、電力送電の方向をコントロールすることができる。
  3. ZVSが可能で、サージ電圧を小さくできる。
  4. 上記の特徴から主に電圧と電流が大きい大容量の電源回路で使用される

今回はDABコンバータについてのサンプル回路を紹介しました。

スイッチの制御プログラム等を確認・変更して頂き、波形の変化を確認することで、
より回路の動作が深まりますので是非お試しください。

本文監修:中原正俊、中村創一郎

参考文献

その他、以下のホームページ、動画もお勧めです。

投稿者:

鈴木 翔大

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