降圧型DCDCコンバータ入門(2)<br>時比率とリプル電流

降圧型DCDCコンバータ入門(2)
時比率とリプル電流

はじめに

インダクタ電流はON区間に増え、OFF区間に減ります。この最大値と最小値の差をリプル電流 \(\Delta I_L\) と呼びます。理想条件・定常状態・電流連続モードでは、次の式で表せます。

\[ \Delta I_L = \frac{V_{in}\,D\,(1-D)}{L\,f_{sw}} \]

\(D\) は時比率、\(L\) はインダクタンス、\(f_{sw}\) はスイッチング周波数です。

本記事では、この式がなぜ成り立つのかを、インダクタの性質から一歩ずつ導きます。最後に、Scideamのサンプル回路で時比率を変えて確かめます。

今回使用するモデルについて

本記事では、Scideamに付属するサンプル回路「BuckConverter.scicir」を使用します。以下よりダウンロードしてご利用いただけます。

サンプル回路:Scideam/circuit_library/buck_converter/BuckConverter.scicir

なお、本サンプル回路はScideamで動作します。Scideamをお持ちでない方は、以下よりダウンロードをしてご利用ください。無償版の「Scideam Free」でも開いて解析できます。

【図1】降圧型DCDCコンバータの回路構成

おさらい

項目記号値
スイッチング周波数\(f_{sw}\)100 kHz(周期 \(T\) = 10 μs)
時比率\(D\)0.5

各区間の時間とインダクタ電圧は、次のとおりです。

区間時間インダクタ電圧 \(v_L\)インダクタ電流
ON\(DT\)\(V_{in} – V_o\)増える
OFF\((1-D)T\)\(-V_o\)減る

この電圧と各区間の時間を、リプル電流の計算に使います。

準備:インダクタの性質

以下の導出では、スイッチとダイオードは損失のない理想的な部品とし、インダクタの巻線抵抗なども無視します。コンデンサの容量は十分大きく、充電・放電による出力電圧の変化は小さいものとして考えます。このため、出力電圧 \(V_o\) は1周期の間ほぼ一定とみなします。また、定常状態でインダクタ電流が途切れない電流連続モードを前提とします。

導出には、インダクタの次の関係式を使います。

\[ v_L = L\,\frac{di_L}{dt} \]

インダクタにかかる電圧 \(v_L\) が一定なら、電流の傾き \(di_L/dt = v_L / L\) も一定です。つまり電流は直線的に変化し、時間 \(\Delta t\) の間の変化量は次のようになります。

\[ \Delta i_L = \frac{v_L}{L}\,\Delta t \]
  • \(v_L\) が正なら電流は増えます。
  • \(v_L\) が負なら電流は減ります。

ON区間とOFF区間の電圧と時間から、電流の変化量を求めます。

リプル電流の式を導く

ステップ1:ON区間に増える電流

リプル電流は、谷から山まで増える量、つまりON区間に増える電流の大きさです。\(v_L = V_{in} – V_o\)、\(\Delta t = DT\) を代入します。

\[ \Delta I_L = \frac{V_{in} – V_o}{L}\cdot DT \]

ステップ2:\(V_o = D \cdot V_{in}\) を入れる

前回求めた \(V_o = D \cdot V_{in}\) を代入します。

\[ V_{in} – V_o = V_{in} – D\,V_{in} = V_{in}\,(1-D) \]

この関係をステップ1の式に代入します。

\[ \Delta I_L = \frac{V_{in}\,(1-D)}{L}\cdot DT \]

ステップ3:周期を周波数で書き直す

周期 \(T\) はスイッチング周波数 \(f_{sw}\) の逆数です。\(T = 1/f_{sw}\) を代入して整理します。

\[ \boxed{\Delta I_L = \frac{V_{in}\,D\,(1-D)}{L\,f_{sw}}} \]

別の見方:OFF区間に減る電流

OFF区間について、\(v_L = -V_o\)、\(\Delta t = (1-D)T\) を代入し、減少量の大きさを求めます。

\[ |\Delta i_{OFF}| = \frac{V_o}{L}\cdot (1-D)T = \frac{D\,V_{in}\,(1-D)}{L\,f_{sw}} \]

サンプル回路の条件で計算する

\[ \Delta I_L = \frac{12 \times 0.5 \times (1-0.5)}{100\,\mu\text{H} \times 100\,\text{kHz}} = \frac{3}{10} = 0.3\ \text{A} \]

理想条件では、インダクタ電流の平均値は負荷電流と同じ \(V_o / R\) = 6 V ÷ 2.5 Ω = 2.4 Aです。リプル電流の半分を足し引きすると、最大値と最小値を求められます。

  • 山(最大値):\(2.4 + 0.3/2 = 2.55\) Aです。
  • 谷(最小値):\(2.4 – 0.3/2 = 2.25\) Aです。

インダクタ電流は、この最大値と最小値の間で変化します。

式から分かること

時比率0.5でリプル電流が最大になる

入力電圧、インダクタンス、スイッチング周波数を一定にして、時比率を変えた場合を考えます。

式の中で時比率が関係するのは \(D\,(1-D)\) の部分だけです。この部分を、次のように変形します。

\[ D\,(1-D) = D – D^2 = \frac{1}{4} – \left(D – \frac{1}{2}\right)^2 \]

右辺の \(\left(D – \frac{1}{2}\right)^2\) は0以上なので、\(D\,(1-D)\) は \(D = 0.5\) のとき最大値 \(1/4\) になり、\(D\) が0.5から離れるほど小さくなります。

時比率 \(D\)\(D\,(1-D)\)リプル電流 \(\Delta I_L\)
0.20.160.192 A
0.50.25(最大)0.300 A
0.80.160.192 A

\(D\) = 0.2と0.8でリプル電流が同じになるのは、次のように説明できます。

  • \(D\) = 0.2:インダクタにかかる電圧は大きい(\(V_{in} – V_o\) = 9.6 V)が、ON時間は2 μsと短くなります。
  • \(D\) = 0.8:インダクタにかかる電圧は小さい(2.4 V)が、ON時間は8 μsと長くなります。

電圧とON時間の積は、どちらも19.2 V·μsです。このため、ON区間に増える電流の大きさも同じになります。

入力電圧が一定なら、時比率0.5付近でリプル電流が最も大きくなります。インダクタは、使う時比率の範囲で一番大きなリプル電流を見積もってから選びます。

インダクタンスとスイッチング周波数の影響

入力電圧と時比率が同じ場合、リプル電流はインダクタンスとスイッチング周波数の積に反比例します。

  • インダクタンス \(L\) を大きくする:\(L\) を2倍にすればリプルは半分になります。ただしインダクタは大きく重くなります。
  • スイッチング周波数 \(f_{sw}\) を上げる:\(f_{sw}\) を2倍にすれば、同じ \(L\) でリプルは半分になります。言い換えると、同じリプルなら \(L\) を半分にできます。ただしスイッチの損失は増えます。

同じリプル電流を許容するなら、スイッチング周波数を上げることで必要なインダクタンスを小さくできます。

電流連続モードが成り立つ条件

インダクタ電流の谷は「平均値 − \(\Delta I_L/2\)」です。負荷が軽くなって平均値が \(\Delta I_L/2\) より小さくなると、OFF区間の途中で電流が0 Aになり、電流が流れない区間が生じます(電流不連続モード)。このとき、出力電圧は時比率だけでなく負荷にも依存し、同じ入力電圧と時比率では \(D \cdot V_{in}\) より高くなります。電流連続モードを前提とした計算を、そのまま適用できません。

サンプル回路では平均2.4 Aに対して \(\Delta I_L/2\) = 0.15 Aなので、十分に余裕があります。

Scideamで確かめる

ここまでに求めた式から、リプル電流は時比率0.5で最大になり、時比率0.2と0.8では同じ大きさになることが分かりました。この関係を、Scideamの解析で確かめます。

時比率ごとの電流波形

【図2】 時比率ごとのインダクタ電流の波形(平均値を0にそろえて表示、2周期分)

\(D\) = 0.2では、短いON区間で電流が急に増え、長いOFF区間でゆっくり減ります。\(D\) = 0.8では、長いON区間でゆっくり増え、短いOFF区間で急に減ります。波形の形は異なりますが、リプル電流はどちらも約0.19 Aです。

\(D\) = 0.5では、ON区間とOFF区間の傾きの大きさが等しく、リプル電流は0.30 Aになります。

時比率とリプル電流の関係

【図3】時比率とリプル電流の関係(破線:手計算、点:Scideam)

時比率を0.1〜0.9まで0.05刻みで変えて、リプル電流(瞬時波形の最大値と最小値の差)を求めました。Scideamの結果は手計算の曲線と重なり、\(D\) = 0.5でリプル電流が最大になっています。

まとめ

  • インダクタ電流はON区間に増え、OFF区間に減る三角波で、その山と谷の差がリプル電流です。
  • ON区間に増える電流から、\(\Delta I_L = \dfrac{V_{in}\,D\,(1-D)}{L\,f_{sw}}\) が導かれます。
  • \(D\,(1-D)\) は \(D\) = 0.5で最大になるため、入力電圧が一定なら時比率0.5付近がリプル電流が最大になる条件です。
  • リプル電流は、インダクタンスかスイッチング周波数を大きくすると小さくなります。
  • Scideamで時比率を変えて解析すると、どの時比率でも手計算と一致します。

参考

▼ 関連記事

▼ サンプル回路

投稿者:

スマートエナジー研究所

投稿日:

2026年 10月 27日