
降圧型DCDCコンバータ入門(1)
時比率と出力電圧
目次
はじめに
12 Vの電源から5 Vや3.3 Vを作るなど、「高い直流電圧から低い直流電圧を作る」回路が降圧型DCDCコンバータ(Buckコンバータ)です。スイッチを高速にON/OFFし、その時間の割合を変えることで出力電圧を調整します。
降圧型DCDCコンバータの出力電圧は、理想条件・定常状態・電流連続モードでは次の式で表せます。
\[ V_o = D \cdot V_{in} \]
式中の \(D\) は、1周期のうちスイッチがONしている時間の割合(時比率)を表します。
本記事では、この式がなぜ成り立つのかを、インダクタの性質から一歩ずつ導きます。
最後に、Scideamのサンプル回路で時比率を変えて確かめます。
今回使用するモデルについて
本記事では、Scideamに付属するサンプル回路「BuckConverter.scicir」を使用します。以下よりダウンロードしてご利用いただけます。
サンプル回路:Scideam/circuit_library/buck_converter/BuckConverter.scicir
なお、本サンプル回路はScideamで動作します。Scideamをお持ちでない方は、以下よりダウンロードをしてご利用ください。無償版の「Scideam Free」でも開いて解析できます。
回路構成と時比率

入力電源 \(V_{in}\) の後ろにスイッチQを置き、その先にインダクタL、コンデンサC、負荷Rをつなぎます。ダイオードDは、スイッチがOFFのときにインダクタの電流を流し続けるための通り道です。
以下の表に、本記事で使用するスイッチング周波数と時比率を示します。
| 項目 | 記号 | 値 |
|---|---|---|
| スイッチング周波数 | \(f_{sw}\) | 100 kHz(周期 \(T\) = 10 μs) |
| 時比率 | \(D\) | 0.5 |
時比率 \(D\) は、1周期 \(T\) のうちスイッチがONしている時間の割合です。
\[ D = \frac{\text{ONの時間}}{\text{周期}\ T} \]
\(T\) = 10 μs、\(D\) = 0.5 なら、5 μs ON、5 μs OFFを繰り返します。ONの時間は \(DT\)、OFFの時間は \((1-D)T\) と書けます。
準備:インダクタの性質
以下の導出では、スイッチとダイオードは損失のない理想的な部品とし、インダクタの巻線抵抗なども無視します。コンデンサの容量は十分大きく、充電・放電による出力電圧の変化は小さいものとして考えます。このため、出力電圧 \(V_o\) は1周期の間ほぼ一定とみなします。また、定常状態でインダクタ電流が途切れない電流連続モードを前提とします。
導出には、インダクタの次の関係式を使います。
\[ v_L = L\,\frac{di_L}{dt} \]
インダクタにかかる電圧 \(v_L\) が一定なら、電流の傾き \(di_L/dt = v_L / L\) も一定です。つまり電流は直線的に変化し、時間 \(\Delta t\) の間の変化量は次のようになります。
\[ \Delta i_L = \frac{v_L}{L}\,\Delta t \]
- \(v_L\) が正なら電流は増えます。
- \(v_L\) が負なら電流は減ります。
あとは、ON区間とOFF区間でインダクタに何Vかかるかが分かれば、出力電圧が求められます。
ON区間とOFF区間でインダクタにかかる電圧

実線の矢印は主な電流の流れを示します。コンデンサに出入りする電流は、破線の矢印で示しています。
ここでも、上記の理想条件と電流連続モードを前提とします。
スイッチONの区間(時間 \(DT\))
電流は「入力電源 → Q → L → 負荷」と流れます。インダクタの左端は \(V_{in}\)、右端は \(V_o\) です。このとき、インダクタにかかる電圧は次のようになります。
\[ v_L = V_{in} – V_o \]
\(V_{in} > V_o\) なので正の値で、電流は増えます。
スイッチOFFの区間(時間 \((1-D)T\))
スイッチが開くと、インダクタは電流を流し続けようとして、電流は「L → 負荷 → D → L」と回ります。ダイオードが導通しているので、インダクタの左端は 0 V(グランド)、右端は \(V_o\) です。
インダクタにかかる電圧は次のようになります。
\[ v_L = 0 – V_o = -V_o \]
よって、負の値なので電流は減ります。
| 区間 | 時間 | インダクタ電圧 \(v_L\) | インダクタ電流 |
|---|---|---|---|
| ON | \(DT\) | \(V_{in} – V_o\) | 増える |
| OFF | \((1-D)T\) | \(-V_o\) | 減る |
出力電圧の式を導く
ステップ1:ON区間に増える電流
\(\Delta i_L = \dfrac{v_L}{L}\,\Delta t\) に、\(v_L = V_{in} – V_o\)、\(\Delta t = DT\) を入れます。
\[ \Delta i_{ON} = \frac{V_{in} – V_o}{L}\cdot DT \]
ステップ2:OFF区間に減る電流
同じく、\(v_L = -V_o\)、\(\Delta t = (1-D)T\) を入れます。
\[ \Delta i_{OFF} = \frac{-V_o}{L}\cdot (1-D)T \]
ステップ3:「増えた分=減った分」とおく
電源を入れてしばらくたつと、回路は毎周期同じ動きを繰り返す定常状態になります。定常状態では、1周期たつとインダクタ電流は元の値に戻ります。つまり、ON区間に増えた分とOFF区間に減った分は同じ大きさです。
\[ \Delta i_{ON} + \Delta i_{OFF} = 0 \]
ステップ1と2の式を代入します。
\[ \frac{V_{in} – V_o}{L}\cdot DT + \frac{-V_o}{L}\cdot (1-D)T = 0 \]
ステップ4:\(V_o\) について解く
両辺に \(\dfrac{L}{T}\) を掛けると、\(L\) と \(T\) が消えます。
\[ (V_{in} – V_o)\,D – V_o\,(1-D) = 0 \]
かっこを外します。
\[ D\,V_{in} – D\,V_o – V_o + D\,V_o = 0 \]
\(-D\,V_o\) と \(+D\,V_o\) が打ち消し合うので、
\[ D\,V_{in} – V_o = 0 \]
\[ \boxed{V_o = D \cdot V_{in}} \]
が得られました。サンプル回路(\(V_{in}\) = 12 V、\(D\) = 0.5)では \(V_o\) = 6 V です。
途中で \(L\) と \(T\) が消えたことから、出力電圧はインダクタンスやスイッチング周波数によらず、時比率だけで決まることも分かります。
別の見方:スイッチ出口の電圧の平均
同じ結果は、もっと直感的にも説明できます。スイッチとダイオードの接続点の電圧は、ON区間は \(V_{in}\)、OFF区間は 0 Vの四角い波形です。その平均は次の式で求められます。
\[ \frac{V_{in}\cdot DT + 0 \cdot (1-D)T}{T} = D \cdot V_{in} \]
インダクタとコンデンサは、この四角い波形のギザギザをならして平均値だけを通す「フィルタ」として働くので、出力には平均値 \(D \cdot V_{in}\) が現れます。
式から分かること
- 出力電圧は時比率に比例する:\(D\) を0〜1の範囲で変えると、出力は0〜\(V_{in}\) の範囲で変わります。入力電圧を超えることはありません。
- 入力電圧が変わっても、時比率で調整できる:たとえば入力が12 Vから10 Vに下がっても、\(D\) を0.5から0.6に上げれば6 Vを保てます。これが、出力電圧を一定に保つ制御の基本になります。
- 負荷抵抗によらない:理想的には、負荷が変わっても出力電圧は変わりません。
Scideamで確かめる
時比率を0.1〜0.9まで0.05刻みで変えて、定常状態の出力電圧をScideamで解析しました。
次の2種類の回路で比べています。
- 損失を小さくした回路:スイッチとダイオードのオン抵抗を0.1 mΩ、ダイオードの順方向電圧を0 Vにした回路(理想条件に近づけた設定)です。
- サンプル回路の初期設定:オン抵抗100 mΩ、順方向電圧0.7 Vが設定された回路です。
時比率は、次の手順で設定します。
- 回路図上のスイッチQを選択します。
- Inspectorに表示される「Timing」の値を、設定したい時比率に変更します。

時比率を設定するたびに、Transient(Full)解析を実行します。
今回の解析で得られた、定常状態の出力電圧をまとめたものが【図4】です。グラフの各点は、過渡応答が収まり、定常状態に達した後の出力電圧を表しています。

| 時比率 \(D\) | 手計算 \(D \cdot V_{in}\) | Scideam (損失を小さくした回路) | Scideam (サンプル回路の初期設定) |
|---|---|---|---|
| 0.2 | 2.4 V | 2.40 V | 1.77 V |
| 0.5 | 6.0 V | 6.00 V | 5.43 V |
| 0.8 | 9.6 V | 9.60 V | 9.10 V |
損失を小さくした回路では、どの時比率でも手計算と一致し、出力電圧が時比率に比例して一直線に増えることが確かめられます。
サンプル回路では少し低くなる
サンプル回路の初期設定では、出力電圧が手計算より0.5〜0.6 Vほど低くなります。これは、実際のスイッチやダイオードではオン抵抗やダイオードの順方向電圧(0.7 V)による電圧降下があり、その分、インダクタにかかる電圧が減るためです。
実際の電源では、出力電圧を測りながら時比率を自動で調整するフィードバック制御で、こうしたずれを補っています。
まとめ
- 時比率 \(D\) は、1周期のうちスイッチがONしている時間の割合です。
- インダクタの性質 \(v_L = L\,di_L/dt\) と、「定常状態では1周期で電流が元に戻る」ことから、\(V_o = D \cdot V_{in}\) が導かれます。
- 理想条件・定常状態・電流連続モードでは、出力電圧は時比率と入力電圧で決まり、インダクタンスやスイッチング周波数にはよりません。
- Scideamで時比率を変えて解析すると、損失をなくした回路では手計算と一致します。実際の部品では電圧降下の分、少し低くなります。
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