いまさら聞けないデジタル電源超入門 
第3回 ADコンバータ編

投稿者: 上司豊 投稿日:

デジタル電源超入門 第1回ではデジタル電源の概要について、第2回ではプログラムを作るのに重要な機能であるタイマについて解説しました。

第3回では、ADコンバータの動作をScideamでシミュレーションします。

ADコンバータとは

ADコンバータはAnalog to Digital Converterの略です。

アナログ信号を数値に置き換える場合、アナログ信号をADコンバータでデジタルに変換します。

デジタル電源では出力の電圧や電流を測定して制御する必要があるため、ADコンバータが必要になります。

標本化(サンプリング)と量子化

連続しているアナログ信号をデジタルに変換するときに、周期Tでアナログ値を切り出す必要があります。
これを標本化(サンプリング)【図1】と言います。

標本化されたアナログ値を決められたらデジタルの値に変換します。
これを量子化【図2】と言います。

量子化されたデータはアナログ値と若干のずれが生じます。
これを量子化誤差と呼びます。

量子化誤差はデジタルに変換する時の分解能(ビット数)で変わります。
すなわちビット数が大きければ大きいほど量子化誤差は減ります。


【図1】標本化(サンプリング)
【図2】量子化

サンプリング周波数とエイリアシング・ノイズ

あるアナログ信号をサンプリングするとします。

しかし【図3】の様にサンプリング周波数が低いと、元の信号を再生できなくなります。

これはエイリアシング・ノイズによるもので、これを解決するためにはサンプリング周波数を高くする必要があります。

【図3】 エリアシング・ノイズ

ナイキストの標本化定理

さて、前記の様にエイリアシング・ノイズによって信号が再生できなくなくことを防ぐにはどのくらいの周波数でサンプリングしなければいけないのでしょうか?

ナイキストの標本化定理によりますと、エイリアシングを防ぐためには変換したい信号の最高周波数の2倍以上の高い周波数でサンプリングする必要があります。

例えばCDのサンプリング周波数は44.1kHzです。

したがってこの半分の22.05kHzの信号まで再生できることになります。

人間の可聴周波数は高い音で約20kHzだと言われていますので、44.1kHzのサンプリング周波数で十分音楽が再生できることになります。

ADコンバータのシミュレーション

それではScideamを使ってADコンバータのシミュレーションを行ってみましょう。

シミュレーションモデルについて

本モデルは、電源パワエレ向け高速回路シミュレータScideam(サイディーム)で動作可能です。
本記事のモデルは以下からダウンロードしてください。

adc_beginners_guide.scicirファイルを開きます。

この回路には既にADコンバータが内蔵されており、出力の電圧をADコンバータで変換して、その波形を見ることができます。

画面右側のCircuit Browserから、をクリックした後、adc_beginners_guide_ADConverterProg.sciprcをダブルクリックしてみてください。ADコンバータのプログラムが表示されます。ここでは出力の電圧をAD変換して出力しています。

Circuit Browserが表示されていない場合は、Scideamのメニューバー/表示/Circuit Browserにチェックが入っていることを確認してください。

次に回路エディタ画面上部にある歯車(コンフィグレーション)からスクリプトを選択してみてください。この回路に含まれているスクリプトは、先ほど表示させたスクリプト一つであり、周波数は、”ADCFrq”という周波数が設定されているということになります。

ADCFrqは、コンフィグレーションのFrequencyにあるサブ周波数の設定で定義されており、1kHzとされています。

それでは実際に動作させてみましょう。

AC100V、50Hzの信号を表示すると共にその値をADコンバータでサンプリングした値も同時に表示させます。

そのまま画面上部の実行ボタンをクリックしますと下記のチャートが表示されます。

サインカーブが元のアナログの波形、ギザギザの波形がADコンバータの出力になります。

演習問題

それでは、演習問題を行ってみましょう。

VACの周波数を50Hzから徐々に上げてゆくとどうなるか、実際にシミュレーションで確かめてみましょう。

回答

画面中央のCircuit EditorのなかのVACをクリックするとインスペクタ―に下記の表が表示されます。
この表のFrequencyを変更します。

現在50Hzになっていますので、50Hz、100Hz, 200Hz, 400Hz, 800Hzの時の波形を見てみましょう。

チャートを表示させ、そのチャートを前のチャートの下にドラッグ&ドロップすると下記の様に一画面に並べて表示されます。

分からない時には別途チュートリアルをご覧ください。
https://www.smartenergy.co.jp/support/ScideamArticles/help/tutorial/tutorial_circuit/tutorial_circuit/

さて、このチャートを見ますと800HzではADコンバータの出力は、元の信号を再生できなくなっています。

この回路のサンプリング周波数は1kHzですので、ナイキストの標本化定理から500Hz以上の周波数の信号は再生できなくなります。

まとめ

今回はADコンバータの動作をScideamでシミュレーションしました。

デジタル電源ではかなり高速な信号をADコンバータで読み取る必要がありますので、分解能も12ビット以上で高速なADコンバータを内蔵したマイコンの使用をお勧めします。

次回はPWMを使ったシミュレーションを行います。お楽しみに。

過去のデジタル電源超入門は以下のリンクにまとまっていますので、ご覧ください。
デジタル電源超入門まとめ
https://www.smartenergy.co.jp/scideam_blog/tag/beginners-guide-digital-control/

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上司豊

現在芝浦工業大学電気工学科で非常勤講師をしています。 デジタル電源などエネルギーシステムについて講義を行っています。