デジタル電源一発動作のための制御モデリングプロセス

投稿者: 中村 創一郎 投稿日:

デジタル制御電源設計をするときに、モデリングすべき内容とは何でしょうか。
制御設計の目的と、それに必要なモデルという視点で考えていきましょう。

モデリングプロセスの通り順を追って考えれば、実機動作も一発でできるようになります。

なぜデジタル電源は動かないのか、その謎がすぐ解ける環境を作りましょう。

また、従来のウォーターフォール型の開発とMBD(モデルベース開発)で行われるVサイクル型の開発の違いも見ていきましょう。

制御設計の手順

制御設計の手順?フィードバック制御を設計すればいいんじゃないの?と思われるかと思います。

例えばPID制御ならば、パラメータ調整を上手にやって、ということでしょう。
そして、評価の方法としては以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • 制御の安定性
  • 定常特性(定常偏差)
  • 過渡特性(目標への応答特性)
  • 雑音への耐量
    など

そして、これらの評価のために以下のような試験があるでしょう。

  • 負荷変動試験
  • 電圧変動試験
  • 周波数変動試験
  • 雑音の重畳試験
    などなど

その他にも、規格に対応しているかどうかという試験もあると思います。

さて、これらの評価、試験を行うときまでに皆さんどのようなプロセスで開発していたでしょうか。

従来の開発とMBD

図に従来の開発手法とMBDとの違いを示します。

評価する項目が分かっている、試験方法もわかっている。それであれば、従来通り設計して、実装して、試験して合格!

本当にそうでしょうか。

ソフトもシステムも複雑化する中で、問題を切り分けながら開発することはとても難しいです。

MBDでは制御設計にかかわる要素をそれぞれバラバラにして順を追って考えることをお勧めします。

モデルの設計段階

「制御設計」と「雑音への耐量」というのは実機では別々に検討することがなかなか難しいです。

動かしたとたんに雑音が発生しますので、切り分けて考えることがとても難しいですから。

しかし、シミュレーションでは違います。

まず、制御系の設計を雑音の無い環境で行って、

その後、ADCモデルに雑音を加えたらどうなるか?ということができます。

ここでお分かりの様に、雑音無しの制御系モデルが、安定して動いていないようでは、次のステップに進んでも動きませんね。

以下にモデルの設計段階を示します。

  1. 理想的な状態でデジタル制御系設計をする
  2. 1.の状態で必要な試験をして安定性、応答特性などを確認する
  3. PWMの量子化誤差を含めて2.を同様にして行う
  4. ADCの量子化誤差を含めて2.を行う
  5. デジタル制御系が固定小数点の場合、制御系の固定小数点化を行い量子化誤差を含めて2.を行う
  6. ADCに雑音を注入して、2.を行う
モデルの設計段階

上記の段階を踏めば、実機で一発動作できるようになります。

段階多くない?って思った方、
モデルベースは急がば回れです。

1で動いてないものは2で動きませんし、逆に3で動いていて、4で動かなくなるのであれば、そこに問題があります。解決しましょう。

実機では、この1~6の検証を行わないまま、試験に突入します。問題が起こったとき、どこで起きているのか切り分けることができるでしょうか。

実機とにらめっこするのは、装置へのダメージと、心と体へのダメージが大きいです。ほどほどにしましょう。

ソフトに問題が無いことを言い切れるか

このプロセスを通して、ソフト設計して、次に待っているのは実装です。

もし、実装した時に動かなくなった場合、ソフトが正しく動きさえすれば、シミュレーションの様に動作することは開発者には分かっています。

つまり、

実装でしくじっていることがすぐに分かります。

デジタル制御はソフトの動作がうまくいかないと一瞬で装置の破壊につながります。ソフトに自信がない状態で、装置が壊れた後、問題の判別ができますか?

問題の切り分けがとにかく大事です。

大事なところを抜き出して考える

先のモデル設計段階における1〜6のプロセスは、モデルベースの開発プロセスでは、「MILS : Model in the Loop Simulation」、「SILS : Software in the Loop Simulation」と呼ばれます。

おおよそ理想状態で行うシミュレーション、プロセスの1, 2についてをMILSと言い、実装のことを考慮し、実装するファームウエアの形に変更していく作業を行うプロセス、3〜5を行うことをSILSと言います。

このプロセスは、何か課題があったときに問題の本質がどこにあるのか、切り分けるために行われます。

そして、ほとんどの問題は、MILSで解決されあわよくばMILS実施中に、要求仕様書の間違いに気づき、仕様の修正まで出来たらしめたものです。

モデルベース開発、V字の開発プロセスがうまく機能していると言っていいでしょう。

まとめ

MBDは設計プロセスを意識することで、効果が何倍にも大きくなります。

問題を切り分けて考えられる環境、なぜ電源が動かないのか、実機で動かない理由を分解し特定できる環境を作ることをお勧めします。

弊社では、このようなモデルベース開発のために技術支援・環境構築支援を行っています。お気軽にお問合せください。

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モデルベース開発については、こちらにまとまっておりますので、併せてご覧ください。

モデルベース開発 まとめ

また、電源設計のための高速回路シミュレータ Scideam(サイディーム)も日々開発しております。

デジタル電源は環境構築をして一発動作を行いましょう!

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中村 創一郎

株式会社スマートエナジー研究所代表取締役 博士(工学) モデルベース開発やシステムズエンジニアリングを用いて、 系統連系インバータや双方向コンバーターなどのデジタル制御電源開発を得意とする、エンジニア兼コンサルタント兼経営者 日々、シミュレーションの魅力を伝えられないか奮闘中 実績 大手電機メーカーへの開発支援、モデルベース支援 系統連系インバータの開発・認証取得支援 自動車メーカーへのシステムズエンジニアリング支援 宇宙航空研究開発機構との共同研究 など 会社創業以来10年以上、デジタル制御電源とモデルベース開発に従事